日々の雑感

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【書評】「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」 よくよく考えたら電気羊ってどういうセンスだよ

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 著者 フィリップ・K・ディック 訳者 浅倉久志

 

 

言わずと知れた古典SFの名作である。内容は知らずとも、タイトルには聞き覚えがあるという人は多いかもしれない。
もし知らないとしても、映画『ブレードランナー』の原作と言えばピンと来るだろう。
主人公・リック・デッカードはサンフランシスコ警察に所属する賞金稼ぎで、逃げ出したアンドロイドを始末して生活している。彼は本物の生物を飼うのがステータスとされているこの世界で、お金が足りず、人口の電気羊を飼っており、劣等感を抱いている。
そんな中火星で作業をしていた新型アンドロイドネクサス6型が逃亡し地球に侵入するという事件が起こる。この事件を追うことになったデッカードは、様々なアンドロイドと交流し、世界の真実を見ることで、心境が変化してゆく。

 

今でこそフィリップ・K・ディックは有名作家であるが、生前は科学的考証の甘さや、用いるSFモチーフのキッチュさチープさがあり今ほど評価されていなかった。
しかし時代が進んでいくにつれ段々受け入れられ、著作が何度も映像化されるまでになった。
ディック作品に共通する「今自分がいるこの現実がいとも簡単に崩れ去っていしまう感覚」は本作にも健在で、人間だと思っていた者がアンドロイドであったり、またその逆であったり、強固だと思っていた組織が虚構のものであると分かったり。何度も揺さぶりをかけられる。
また本作では人間とアンドロイドの違いは共感能力(empathy)だけであるとしているのも特徴のひとつ。


ディック的感覚が受け入れられたのは、複雑化する社会状況の中で人々がそれまで信じていた大きいもの(政治体制や自分たちの正しさ)に裏切られる経験をしたからだ、と言われることがある。
私たちも、何が正しいのか分からない現代社会に生きている。ディック的感覚を持って、社会を疑ってみるのもいいかもしれない。