日々の雑感

私が毎日見たり聞いたりしたものに対して思ったことを書き連ねていきます。

【書評】「自助論」天は自ら助るものを助く

本日は都立高校入試の前日、国公立大学入試5日前。マスクをして単語帳と睨めっこしている学生をよく見かけます。ただでさえ精神的に辛いのに今年は入試制度改革の直前だったり、コロナウイルスの流行があったり、胸中お察しします。
ただ、いくら泣き言を言おうと受験は質より量。入試では自分がこの3年間どれだけ勉強したかが問われます。どこまでも自助の世界で、他人の助けはきっかけにはなりえても結果を決める最終的な要素足りえません。
その様な競争を経験した生徒は結果がどうあれ、格段に成長すると私は信じています。しかし、勝って兜の緒を締めよという言葉があるように、受験に打ち勝った生徒こそ注意が必要です。人生の目的は学校に入学することではない。なのに、入学の段階で努力をやめてしまう生徒がいる。それでは、よりよい人間となる途は閉ざされてしまいます。


『自助論』
著:サミュエル・スマイルズ 訳:竹内均

 

自助論

自助論

 


1858年にイギリスで刊行された本書は、自助の精神の大切さを説き、世界中でヒットしました。日本史を習ってきた方には、「西国立志編」と呼んだほうが馴染みがあるかもしれません。明治時代に中村正直が翻訳した際のタイトルです。本書は学問ノススメと並んで明治期の青年のバイブルとなり、その後の富国強兵の精神的支柱として長らく用いられてきました。

本書は、社会学の理論を記した本でも、政治学の本でもありません。自己啓発本であり、ビジネス書です。本書では、より良い生き方をするためのヒントが、様々な成功者のエピソードを織り交ぜつつ語られていきます。
19世紀イギリスは世界で初めて近代的な産業社会が成立した場所です。そこで生まれた知恵はパラダイムが完全に変わってしまうまでは有効でしょうし、仮に新たな社会が到来してもあくまで自己研鑽の手法として自助は役に立つでしょう。よって、本書を読む価値は現代においても十分にあると考えます。寧ろ、個人の道義上の社会的責任が軽視されがちな現代日本社会に生きる我々こそ、読むべきものなのかもしれません。
勿論、公助、共助が妥当な行政領域の拡大には留意する必要がありますし、トマピケティ以降のr>gが暴かれた世界で生きている我々には「本当かよ」と思える記述もありますが、そこは自分の頭で整合性をつけて読んでいくことを望みます。そこだけを根拠に本書を否定するのはあまりにも失う価値が大きいです。
特に、ビジネスで成功するための条件として注意力、勤勉、正確さ、手際の良さ、時間厳守、迅速さの6つが挙げられ、加えて一流になるためには素早い直観力と計画を断固やり抜く強い意志が必要であるとする記述は、重要であると感じます。また、著者はビジネスだけでなく学問や文学、音楽、美術においても言及しており、金儲けだけを考えているわけではありません。

 

Test of Time

真実の記述は時を経ても人々に親しまれます。本書もそのひとつです。
流れの速い現代においては、常に流行を追いかけ、他者に負けじとレッドオーシャンに飛び込むことが人生の成功の秘訣であると信じている人が多くいます。私自身まだ何もやり遂げてはいないのでそれを否定するわけではありませんが、流行の最先端にいると思われるとあるビジネスの成功者は、「流行を追わずに古典を読め」と言います。また、世界一の投資家ウォーレンバフェットも既存の市場を好みます。今現在の利益を手にすることはないかもしれませんが、絶対に失敗はせず、最終的には大きな成功を得ることができるというのです。
同じように、自己啓発をする際も、よく分からないコンサルや商社上がりの本を読むくらいなら、test of timeを勝ち抜いてきた「自助論」を100回繰り返して読むほうが良いと私は考えます。